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地球ゆるりひとり旅

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旅の風景 アウトロー
汗ばむバンコクを出発して、福岡に降り立った。約五時間のフライトで、炎天下の熱帯地から雪風が吹く極東の国に戻る。陽気な南国の青空が、鉛色の冬空に変わった。地球はなんという狭さか。たった5時間で夏が冬に変化する。

乗り合わせたチャイナ・エアは1時間と少し遅れた。すでに夜行バスの乗車券を買ってある。このバスへの乗り継ぎが危うい。スチワーデスに頼み、先頭で飛行機を降ろしてもらった。走った。階段を駆け上がった。人ごみを押しのけた。噴出す汗を拭きながらバス停に駆け込んだ。長距離バスの乗り場には人影がない。ひとり係員がホームに立っていた。

Bangkok
バンコク

「松江行きのバスはもう出ましたか?」

「ああ、来なかった人だねぇ。3分前だよ。もう出発した」

係員はひろごとのように言った。
これが最後の便、ここであきらめず、電車で小倉まで追いかけた。小倉駅でバスの運転手に訪ねた。
「ええと、時刻通りだと十分前ぐらいだね。もう出発してるよ」

ここでもバスに乗れなかった。

夜中12時前に小倉の街に投げ出された。

小倉は初めてではない。何度が訪れたことがある。泊まったことのあるホテルも目の前にある。たぶんそこに行けば、安心できる場所がある。

なぜか、目が冴えていた。各駅列車に揺られていたい気分だった。始初列車を調べると5時過ぎだ。5時間待つぐらいは何でもない。始初電車に乗りたい。問題は待つ場所である。

終電のあと、駅がどうなるのか。周辺はどんな雰囲気となってしまうのか。実はこれまで知らなかった。朝型人間は、これまで経験することがなかった。

警察官が駅にいる人に尋問して回っている。大屋根がかかる広い駅舎に、10人といない。警官が恐い目つきでにらみをきかしている。駅のベンチに座っているが、恐ろしく居心地が悪い。バンコクで無精をして、ひげが伸び放題だ。

「やばい、これでは風太郎だ」

近づいくる警官を背に、駅のベンチを立った。

小倉の夜の街をさまよい歩く。危険は感じない。車は常に通るが、街はひっそり静かだ。

Wendy House
バンコクでの宿  Wendy House 一泊1000B 評判とおり

ふと車道を見ると、パトロールカーがオレを監視している。

「ああ、ついにオレは不審者となってしまった」

自分は危険におびえる被害者ではなく、危害を加えそうな奴に見られている。軽い衝撃があった。それでも、部屋を取る気持ちにはなれない。物価の安い国から日本に帰ると、宿泊費に敏感になる。5時間のために、バンコクの5日分の宿泊代は払うのはいかがなものか。そのときはそう思った。

小倉の街を歩き回った。とくに目的はない。5時間の暇つぶしだ。リュックを背負い軽快に歩いている限り不審者には見えないようだ。1時間は歩いた。知らない街をさまようのは嫌いではない。とくに深夜の散歩はあまり経験がない。新鮮さがあった。バンコクと比べえるせいなのか、街の大きさより人通りが極端にすくない。

それでも長い移動の途中にある。ひざが悲鳴を上げだした。身を休ませる場所が欲しい。そんなとき、いい場所が視野に入ってきた。24時間ファミリーレストラン、ちょうどお腹もすいている。ドリンクは飲み放題、ひんしゅくは買うだろうが、仮眠もできよう。始初列車までこれ以上の安住の場所はない。

照明がまぶしい店内はガランとしていた。禁煙席はアベックの2人組みがひそひそ話で盛り上がっている。それとは反対に喫煙席に目をやると、広い店内の奥の隅と隅で2人が横になっている。考えることは同じなのだろう、自分と同じような境遇の人がふたりいる。オレは空いている隅に席をとった。

にぎやかな話声に満ちている昼間のファミリーレストランとは異質なものだ。大きなリュックを背負って深夜のレストランを訪れたからか、ウエイトレスの警戒心はピリピリだ。遠巻きにオーダーを聞きにくる。

自分がいつも自分ではない。他人が自分をはじき出そうとする。相手のひとつひとつの仕草がこころにつき刺さる。オレはアウトローだ。越えてはならないものを、意図しないうちに越えてしまっている。

オレは顔色が悪い女性ウエイトレスに、飛びっきりの笑顔を投げかけた。

「もう、腹がべこぺこだ。サイコロステーキをいただけますか?」

それで彼女は安心したようだった。

オレは社会の裏側にいる。見てはいけないものを見てしまっているのか。

人の視線は、「やっかい者はどっかに行け」と訴えかけている。

冬のサイクリング
早春のサイクリング

しかし不思議だ。バス停に3分遅れただけで、まったく異なる世界が広がる。今のオレは完全に反対岸にいる。歯をくいしばり、人びとの冷淡な態度に耐えなければならない。

表があれば必ず裏がある。知識では知っていたが、実際に自分の身に降りかかると、足が震えるほどに恐ろしい。

つい数ヶ月前にも、自転車で野宿する旅をしていた。そのときは、こんな状況はなかった。場所はチベットやパキスタンの辺境の土地だ。冷たい視線どころか、人なつっこい顔が並んでいた。

「何なんだ、この違いは?」

オレという人間が変わったわけではない。条件がひとつ欠けただけだ。深夜に泊まる場所がない。数時間をすごす場所がない。それだけのことだ。それを荷物と服装で表現している。それだけで人々の態度が一変する。

「やっかい者!浮浪者!近寄るな!」

声なき声が聞こえる。

「いや違うんだ。オレはバスに乗り遅れただけだ。たった3分の違いだったのだ」

そんなことを叫びたい気分だった。

浮浪者と自分との間には、すいぶんと距離があるものと思ってきた。地続きであるとは思っていたが、実はすぐ隣に存在した。それが衝撃だった。

世の中には、毎日こんな状況に耐えていきている人々がいる。今まで意識をしてこなかったが、オレ自身も冷酷な加害者のひとりだった。しかし、当事者となってみて見える人々はあまりに寒々しい目だ。迷惑はご免だとうとする警戒の目、共感するこころを忘れた獣の目だ。正当な立場から、落ちこぼれ者をたたこうとする。問答無用な目が並ぶ。

帰国してまだ3時間だからだろうか、なにか海の向こうの都市を歩いている感じがする。しかし、これがこの国の本当の姿である。

数あるうちのたったひとつを失っただけで、人のこころを持って、獣の世界を生きることになる。人が獣となり、人の心をずたずたに引き裂く。そんな社会が直ぐ横にある。







「浮浪ものの自分が岸の向こうではなく、実はすぐ横にあった?」

って言うんじゃ〜ない!

「走る電車に身をあずければ、すぐ横にあの世が待っていりますから〜!」

「残念!」

「勝手に中年男のセンチメンタルやってろ斬り!」

毎度ながら自らボケ、自ら突っ込むとは、面目次第もござりませぬ m(_ _; )m

関連記事 →5月17日 南国ボケ治療をして帰ります
| 旅の風景 | 14:46 | comments(3) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
バンコク就職面接
先日、就職の面接のためバンコクへ行ってきた。せっかくの海外も背広を着てネクタイを締めると、自然と仕事モードに変わり、街がまったく別物に見えるから不思議なものだ。

ネットで求人募集を見つけ、感触の良い返事をもらったので、善は急げとバンコクに飛んだ。行って見てびっくり、相手は想像以上に小さい会社で、タイ人社長も私よりずっと若い。ただ話を聞いてこころ強くなった。

それはそこでの処遇ではない。それはほとんど絶望的だった。会社の看板となり仕事をこなし、技術面ばかりでなく営業も担えという。その要求と実際の処理能力には自ずと限界が見える。そんなことではなく、この街ならば、自分の技術が必要とされる場所がある。日本人の技術者というだけで価値を生み出す土壌があり、自分の仕事で周囲に富と幸せをもたらす。この小さな会社の社長と話をする中でそんな印象を持った。

タイでは良くて、なぜ、日本では駄目なのか?

バンコクの自転車道
バンコクの自転車道

それは、日本が縮小しているから、物価が下がり、地価が下落し、人口が減ってゆくからだ。

物価が下がることが、これほど恐ろしいこととは不勉強だった。土建業は経営者の大博打の上に生計が成り立つ。環境が縮小して、物が安くなる低成長時代に大博打を打つ経営者がどれだけいるのか。街を歩けばすぐに分かる。約20年前は街の5分の1が工事をしていたのとは天と地ほどの差がある。

右肩上がりで、地価が上がり、人口が増える社会では、土建業は建て主に有利な提案が出来る。土地は早く買ったほうが良いし、建物も作り替えたほうが有利だ。そんな利益を生む提案がどこにでも転がっていた。建物を作ることで、生活の上も経済的な上でも”明快な幸せ”をつくりえた。

たとえば住宅ひとつ取っても、ひと昔前は一戸建てを持ったほうが絶対に得だった。住環境は良くなり、金銭面でも有利だった。それが今は違う。価値が下がる時代では、後で買うほうが得だ。将来に少しでも不安があれば、ローンを避けたほうがいい。リスクを背負い込むより、貸家で我慢するほうが合理的な場面が少なくない。

物価が下がる段階で”建てよ、増やせよ”という提案には、どうしても嘘が混じる。“当面の底値までは見定めたほうが堅実です“というのが筋だろうが、そんな提案をする設計士に未来はない。

カオサン通り バンコク
ご存知、カオサン通り

一方バンコクに目を向けると、人々は活気に満ちあふれている。「明日は今日より必ず良くなる」という感じが肌を通して伝わってくる。人々の顔から希望がこぼれる。バンコクは右肩上がりの行け行けどんどんなのだ。発展する余地が十分過ぎるほどある。そんな世界が正常でないことは、ここ数年で身にしみて分かっている。されど、悲しいことながら、自分が必要とされ、人の役に立つのはこんな場所だけのようなのだ。

ここに来て、今まで無理に仕事をしてこなかった理由がはっきりした。正直、縮小日本では自分の仕事で価値を生む出すことが難しい。逆に言えば、拡大社会の中だけでしかその役割がない。成長経済の中での土建業には、本来の仕事の上に大きな付加価値が乗る。建物を造りだすと同時に、建て主に富みももたらす。その上、使う人々にも豊かさを運ぶ。片方は古い設備に翻弄され、どんなに努力しても良い仕事とはならない。苦心の割に報われることがない汚れ役なのだ。

経済の変化が仕事の質を一変させた。一方ではダイナミックに富を循環させ、生活を一変させる華麗な技術職だが、一方ではクレームにおびえる建物の修繕保全係なのだ。正直、その差は大きすぎる。本来は両方の担い手なのだけれど、縮小経済では後者の役ばかりだ。

サイアムスクエア バンコク
サイアムスクエアのパフォーマンス

幸い海を渡れば、仕事の質を一変させることが出来る。そんな実感を得た。成長経済の中でしか役に立たないという後ろめたさはある。バブルのなかだけを浮遊する人生、泡を膨らませるための技術、人のそこはかなき欲望を社会の底辺でかきたてる仕事、若い時代と違い、自分の仕事の本質がよく見える。

それでも前進する。なぜならば、そんな暗い面と同時に、人を明るくし活力を生む出す力にもなるからだ。善の中にも悪があり、悪のなかにも善がある。そして、自分はその両面を重ねもつ存在だからだ。










「ダイナミックに富を循環させる華麗な技術職?」

って言うんじゃない?

「それって、ただの資本家にたかる太鼓もちですから〜」

「残念!」

「お足の周りでぶんぶんやっておれ斬り!」

自分でボケて、自分で突っ込むとは、めんぼく次第もござらりませぬ、m(_ _; )m


関連記事 → 旅の風景3 守るもの
| 旅の風景 | 13:11 | comments(2) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
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