2010.03.05 Friday
旅の風景 アウトロー
汗ばむバンコクを出発して、福岡に降り立った。約五時間のフライトで、炎天下の熱帯地から雪風が吹く極東の国に戻る。陽気な南国の青空が、鉛色の冬空に変わった。地球はなんという狭さか。たった5時間で夏が冬に変化する。
乗り合わせたチャイナ・エアは1時間と少し遅れた。すでに夜行バスの乗車券を買ってある。このバスへの乗り継ぎが危うい。スチワーデスに頼み、先頭で飛行機を降ろしてもらった。走った。階段を駆け上がった。人ごみを押しのけた。噴出す汗を拭きながらバス停に駆け込んだ。長距離バスの乗り場には人影がない。ひとり係員がホームに立っていた。

バンコク
「松江行きのバスはもう出ましたか?」
「ああ、来なかった人だねぇ。3分前だよ。もう出発した」
係員はひろごとのように言った。
これが最後の便、ここであきらめず、電車で小倉まで追いかけた。小倉駅でバスの運転手に訪ねた。
「ええと、時刻通りだと十分前ぐらいだね。もう出発してるよ」
ここでもバスに乗れなかった。
夜中12時前に小倉の街に投げ出された。
小倉は初めてではない。何度が訪れたことがある。泊まったことのあるホテルも目の前にある。たぶんそこに行けば、安心できる場所がある。
なぜか、目が冴えていた。各駅列車に揺られていたい気分だった。始初列車を調べると5時過ぎだ。5時間待つぐらいは何でもない。始初電車に乗りたい。問題は待つ場所である。
終電のあと、駅がどうなるのか。周辺はどんな雰囲気となってしまうのか。実はこれまで知らなかった。朝型人間は、これまで経験することがなかった。
警察官が駅にいる人に尋問して回っている。大屋根がかかる広い駅舎に、10人といない。警官が恐い目つきでにらみをきかしている。駅のベンチに座っているが、恐ろしく居心地が悪い。バンコクで無精をして、ひげが伸び放題だ。
「やばい、これでは風太郎だ」
近づいくる警官を背に、駅のベンチを立った。
小倉の夜の街をさまよい歩く。危険は感じない。車は常に通るが、街はひっそり静かだ。

バンコクでの宿 Wendy House 一泊1000B 評判とおり
ふと車道を見ると、パトロールカーがオレを監視している。
「ああ、ついにオレは不審者となってしまった」
自分は危険におびえる被害者ではなく、危害を加えそうな奴に見られている。軽い衝撃があった。それでも、部屋を取る気持ちにはなれない。物価の安い国から日本に帰ると、宿泊費に敏感になる。5時間のために、バンコクの5日分の宿泊代は払うのはいかがなものか。そのときはそう思った。
小倉の街を歩き回った。とくに目的はない。5時間の暇つぶしだ。リュックを背負い軽快に歩いている限り不審者には見えないようだ。1時間は歩いた。知らない街をさまようのは嫌いではない。とくに深夜の散歩はあまり経験がない。新鮮さがあった。バンコクと比べえるせいなのか、街の大きさより人通りが極端にすくない。
それでも長い移動の途中にある。ひざが悲鳴を上げだした。身を休ませる場所が欲しい。そんなとき、いい場所が視野に入ってきた。24時間ファミリーレストラン、ちょうどお腹もすいている。ドリンクは飲み放題、ひんしゅくは買うだろうが、仮眠もできよう。始初列車までこれ以上の安住の場所はない。
照明がまぶしい店内はガランとしていた。禁煙席はアベックの2人組みがひそひそ話で盛り上がっている。それとは反対に喫煙席に目をやると、広い店内の奥の隅と隅で2人が横になっている。考えることは同じなのだろう、自分と同じような境遇の人がふたりいる。オレは空いている隅に席をとった。
にぎやかな話声に満ちている昼間のファミリーレストランとは異質なものだ。大きなリュックを背負って深夜のレストランを訪れたからか、ウエイトレスの警戒心はピリピリだ。遠巻きにオーダーを聞きにくる。
自分がいつも自分ではない。他人が自分をはじき出そうとする。相手のひとつひとつの仕草がこころにつき刺さる。オレはアウトローだ。越えてはならないものを、意図しないうちに越えてしまっている。
オレは顔色が悪い女性ウエイトレスに、飛びっきりの笑顔を投げかけた。
「もう、腹がべこぺこだ。サイコロステーキをいただけますか?」
それで彼女は安心したようだった。
オレは社会の裏側にいる。見てはいけないものを見てしまっているのか。
人の視線は、「やっかい者はどっかに行け」と訴えかけている。

早春のサイクリング
しかし不思議だ。バス停に3分遅れただけで、まったく異なる世界が広がる。今のオレは完全に反対岸にいる。歯をくいしばり、人びとの冷淡な態度に耐えなければならない。
表があれば必ず裏がある。知識では知っていたが、実際に自分の身に降りかかると、足が震えるほどに恐ろしい。
つい数ヶ月前にも、自転車で野宿する旅をしていた。そのときは、こんな状況はなかった。場所はチベットやパキスタンの辺境の土地だ。冷たい視線どころか、人なつっこい顔が並んでいた。
「何なんだ、この違いは?」
オレという人間が変わったわけではない。条件がひとつ欠けただけだ。深夜に泊まる場所がない。数時間をすごす場所がない。それだけのことだ。それを荷物と服装で表現している。それだけで人々の態度が一変する。
「やっかい者!浮浪者!近寄るな!」
声なき声が聞こえる。
「いや違うんだ。オレはバスに乗り遅れただけだ。たった3分の違いだったのだ」
そんなことを叫びたい気分だった。
浮浪者と自分との間には、すいぶんと距離があるものと思ってきた。地続きであるとは思っていたが、実はすぐ隣に存在した。それが衝撃だった。
世の中には、毎日こんな状況に耐えていきている人々がいる。今まで意識をしてこなかったが、オレ自身も冷酷な加害者のひとりだった。しかし、当事者となってみて見える人々はあまりに寒々しい目だ。迷惑はご免だとうとする警戒の目、共感するこころを忘れた獣の目だ。正当な立場から、落ちこぼれ者をたたこうとする。問答無用な目が並ぶ。
帰国してまだ3時間だからだろうか、なにか海の向こうの都市を歩いている感じがする。しかし、これがこの国の本当の姿である。
数あるうちのたったひとつを失っただけで、人のこころを持って、獣の世界を生きることになる。人が獣となり、人の心をずたずたに引き裂く。そんな社会が直ぐ横にある。
「浮浪ものの自分が岸の向こうではなく、実はすぐ横にあった?」
って言うんじゃ〜ない!
「走る電車に身をあずければ、すぐ横にあの世が待っていりますから〜!」
「残念!」
「勝手に中年男のセンチメンタルやってろ斬り!」
毎度ながら自らボケ、自ら突っ込むとは、面目次第もござりませぬ m(_ _; )m
関連記事 →5月17日 南国ボケ治療をして帰ります
乗り合わせたチャイナ・エアは1時間と少し遅れた。すでに夜行バスの乗車券を買ってある。このバスへの乗り継ぎが危うい。スチワーデスに頼み、先頭で飛行機を降ろしてもらった。走った。階段を駆け上がった。人ごみを押しのけた。噴出す汗を拭きながらバス停に駆け込んだ。長距離バスの乗り場には人影がない。ひとり係員がホームに立っていた。

バンコク
「松江行きのバスはもう出ましたか?」
「ああ、来なかった人だねぇ。3分前だよ。もう出発した」
係員はひろごとのように言った。
これが最後の便、ここであきらめず、電車で小倉まで追いかけた。小倉駅でバスの運転手に訪ねた。
「ええと、時刻通りだと十分前ぐらいだね。もう出発してるよ」
ここでもバスに乗れなかった。
夜中12時前に小倉の街に投げ出された。
小倉は初めてではない。何度が訪れたことがある。泊まったことのあるホテルも目の前にある。たぶんそこに行けば、安心できる場所がある。
なぜか、目が冴えていた。各駅列車に揺られていたい気分だった。始初列車を調べると5時過ぎだ。5時間待つぐらいは何でもない。始初電車に乗りたい。問題は待つ場所である。
終電のあと、駅がどうなるのか。周辺はどんな雰囲気となってしまうのか。実はこれまで知らなかった。朝型人間は、これまで経験することがなかった。
警察官が駅にいる人に尋問して回っている。大屋根がかかる広い駅舎に、10人といない。警官が恐い目つきでにらみをきかしている。駅のベンチに座っているが、恐ろしく居心地が悪い。バンコクで無精をして、ひげが伸び放題だ。
「やばい、これでは風太郎だ」
近づいくる警官を背に、駅のベンチを立った。
小倉の夜の街をさまよい歩く。危険は感じない。車は常に通るが、街はひっそり静かだ。

バンコクでの宿 Wendy House 一泊1000B 評判とおり
ふと車道を見ると、パトロールカーがオレを監視している。
「ああ、ついにオレは不審者となってしまった」
自分は危険におびえる被害者ではなく、危害を加えそうな奴に見られている。軽い衝撃があった。それでも、部屋を取る気持ちにはなれない。物価の安い国から日本に帰ると、宿泊費に敏感になる。5時間のために、バンコクの5日分の宿泊代は払うのはいかがなものか。そのときはそう思った。
小倉の街を歩き回った。とくに目的はない。5時間の暇つぶしだ。リュックを背負い軽快に歩いている限り不審者には見えないようだ。1時間は歩いた。知らない街をさまようのは嫌いではない。とくに深夜の散歩はあまり経験がない。新鮮さがあった。バンコクと比べえるせいなのか、街の大きさより人通りが極端にすくない。
それでも長い移動の途中にある。ひざが悲鳴を上げだした。身を休ませる場所が欲しい。そんなとき、いい場所が視野に入ってきた。24時間ファミリーレストラン、ちょうどお腹もすいている。ドリンクは飲み放題、ひんしゅくは買うだろうが、仮眠もできよう。始初列車までこれ以上の安住の場所はない。
照明がまぶしい店内はガランとしていた。禁煙席はアベックの2人組みがひそひそ話で盛り上がっている。それとは反対に喫煙席に目をやると、広い店内の奥の隅と隅で2人が横になっている。考えることは同じなのだろう、自分と同じような境遇の人がふたりいる。オレは空いている隅に席をとった。
にぎやかな話声に満ちている昼間のファミリーレストランとは異質なものだ。大きなリュックを背負って深夜のレストランを訪れたからか、ウエイトレスの警戒心はピリピリだ。遠巻きにオーダーを聞きにくる。
自分がいつも自分ではない。他人が自分をはじき出そうとする。相手のひとつひとつの仕草がこころにつき刺さる。オレはアウトローだ。越えてはならないものを、意図しないうちに越えてしまっている。
オレは顔色が悪い女性ウエイトレスに、飛びっきりの笑顔を投げかけた。
「もう、腹がべこぺこだ。サイコロステーキをいただけますか?」
それで彼女は安心したようだった。
オレは社会の裏側にいる。見てはいけないものを見てしまっているのか。
人の視線は、「やっかい者はどっかに行け」と訴えかけている。

早春のサイクリング
しかし不思議だ。バス停に3分遅れただけで、まったく異なる世界が広がる。今のオレは完全に反対岸にいる。歯をくいしばり、人びとの冷淡な態度に耐えなければならない。
表があれば必ず裏がある。知識では知っていたが、実際に自分の身に降りかかると、足が震えるほどに恐ろしい。
つい数ヶ月前にも、自転車で野宿する旅をしていた。そのときは、こんな状況はなかった。場所はチベットやパキスタンの辺境の土地だ。冷たい視線どころか、人なつっこい顔が並んでいた。
「何なんだ、この違いは?」
オレという人間が変わったわけではない。条件がひとつ欠けただけだ。深夜に泊まる場所がない。数時間をすごす場所がない。それだけのことだ。それを荷物と服装で表現している。それだけで人々の態度が一変する。
「やっかい者!浮浪者!近寄るな!」
声なき声が聞こえる。
「いや違うんだ。オレはバスに乗り遅れただけだ。たった3分の違いだったのだ」
そんなことを叫びたい気分だった。
浮浪者と自分との間には、すいぶんと距離があるものと思ってきた。地続きであるとは思っていたが、実はすぐ隣に存在した。それが衝撃だった。
世の中には、毎日こんな状況に耐えていきている人々がいる。今まで意識をしてこなかったが、オレ自身も冷酷な加害者のひとりだった。しかし、当事者となってみて見える人々はあまりに寒々しい目だ。迷惑はご免だとうとする警戒の目、共感するこころを忘れた獣の目だ。正当な立場から、落ちこぼれ者をたたこうとする。問答無用な目が並ぶ。
帰国してまだ3時間だからだろうか、なにか海の向こうの都市を歩いている感じがする。しかし、これがこの国の本当の姿である。
数あるうちのたったひとつを失っただけで、人のこころを持って、獣の世界を生きることになる。人が獣となり、人の心をずたずたに引き裂く。そんな社会が直ぐ横にある。
「浮浪ものの自分が岸の向こうではなく、実はすぐ横にあった?」
って言うんじゃ〜ない!
「走る電車に身をあずければ、すぐ横にあの世が待っていりますから〜!」
「残念!」
「勝手に中年男のセンチメンタルやってろ斬り!」
毎度ながら自らボケ、自ら突っ込むとは、面目次第もござりませぬ m(_ _; )m
関連記事 →5月17日 南国ボケ治療をして帰ります









